ニキビ痕の治療
肥厚性瘢痕・ケロイドの治療
下記種類がありますがいずれも圧迫療法を併用することが多いです。日本の「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」での治療アルゴリズムを掲載します。
①ステロイド局所注射(C1)
日本の「尋常性痤瘡治療ガイドライン2017」で推奨されている唯一の治療法です。作用機序はステロイドの抗炎症作用、血管収縮作用、線維芽細胞の増殖抑制やコラーゲンの分解促進作用です。トリアムシノロンアセニド懸濁液10mgを1%リドカイン液で2〜4倍に希釈して3〜4週間に1回瘢痕内に注射します。副作用は脱色素斑、皮膚萎縮、毛細血管確証などです。
引用;竹内正樹.ケロイド・肥厚性瘢痕.最新皮膚科学大系.110-112,2004.
②トラニラスト内服(C2)
線維芽細胞の増殖抑制、TGF-β1の産生・遊離抑制作用があります。3〜6ヶ月以上の長期服用で効果が得られるとのことですが、1年内服して内服しないよりはマシ程度です。副作用として膀胱炎症状、肝障害、妊婦には禁忌などあり使いづらいです。
③レーザー治療(C2)
過剰産生した血管を色素レーザーや1064nm Nd:YAGレーザーで治療します。副作用として色素沈着・色素脱失、紫斑形成があります。
④手術療法(C2)
外科的切除は病変が高度で機能障害を伴い、他の治療では効果が期待できない場合に適応としますが、切除部位から再発する可能性があります。術後は電子線療法や圧迫療法を併用します。
萎縮性瘢痕の治療法
真皮の膠原線維を増生させることで陥凹の程度を軽減できると言われています。
瘢痕のタイプ別治療法
瘢痕のタイプ別推奨治療
①ケミカルピーリング
浅いタイプのicepick型に対しては表皮と真皮乳頭層を剥離深達レベルとするTCAが有効です。
色素沈着に対しては角質層を剥離深達レベルとする30%SAマクロゴールやGAが効果的とされています。
日本ではGAピーリングとイオントフォレーシス併用治療が有効であったと報告があります。
②マイクロニードリングセラピー
多数の微小な針をダーマローラーで真皮乳頭層まで刺入し刺激する治療です。rolling型に著効します。
③充填剤による注入療法
Rolling型に有効です。陥凹部位にコラーゲンやヒアルロン酸などの充填剤を注射する方法です。定期的な充填が必要です。最近では自家培養線維芽細胞、自家骨髄幹細胞移植、自己多血小板血漿注入療法が試みられています。
④レーザー療法
浅いタイプに効果があるとされているのは、非剥皮的フラクショナルレーザーNAFL(Non-ablative fractional laser)があります。例えば、1064nm Nd:YAGレーザーや755nmピコ秒レーザーです。組織の凝固のみで上皮化が早く、術後疼痛や色素沈着などの合併症は少ないがAFLに比較して瘢痕改善率は低いので浅いタイプが適応です。
深いタイプのicepick型以外全ての萎縮性瘢痕に有効とされているのは(特にBoxcar型に有効)剥皮的(蒸散型)フラクショナルレーザーAFL(ablative fractional laser)があります。例えばCO2レーザーです。
ablative laserであるCO2レーザーを用いたある症例では浅いicepick scarとrolling scarにおいて有意に改善が観察されていますが、深いicepick scarやboxcar scarでは外見上の改善は乏しいです。
引用;鶴町宗大.Beauty #26.2021;Vol.4.No.1;69:85
柴苓湯:副作用(間質性肺炎)が起こりうるため定期的なレントゲン撮影が行えない環境であればおすすめしない
柴苓湯
柴苓湯は五苓散と小柴胡湯の合剤で12の生薬からなる漢方薬です。内因性副腎皮質ホルモン分泌促進、水分調節作用、線維芽細胞増殖抑制などがあります。肥厚性瘢痕やケロイドに対する有効性が報告されています。
引用;中野頼子.柴苓湯によるヒト視床下部_下垂体_副腎系への影響.ホルモンと臨床,41(7):725-727,1993.
引用;平松幸恭.ケロイド・肥厚性瘢痕に対する柴苓湯の有用性について.日本形成外科学会誌,28(9):549-553,2008.
引用;馬場 奨.頭頸部外科領域手術後の肥厚性瘢痕発生に対する柴苓湯の予防効果_トラニラストとの比較_.Prog Med,28(12):2977-2982,2008.
引用;田代眞一.実地医家のためのTHE KAMPO.7:22-25,2000.
柴苓湯はトラニラストと同等またはそれ以上の効果があるとの報告もあります。
柴苓湯はこれらの作用により早期から炎症を抑え、炎症によって惹起される瘢痕組織の過剰生成を抑制し、色素沈着や隆起を改善することが期待されます。また創傷治癒において注目されるのがbFGF(ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)があります。これは線維芽細胞を始めとするさまざまな細胞に対して増殖や分化誘導など多彩な作用を示す因子であり、上皮化促進作用や血管新生因子としての作用、過剰な肉芽形成を抑制する作用などが報告されています。
引用;Basic FGF and suppression of BMP signaling sustain undifferentiated proliferation of human ES cells
引用;Fibroblast growth factor reversal of the corneal myofibroblast phenotype
引用;Basic fibroblast growth factor stimulates human keratinocyte motility by Rac activation
以上より柴苓湯はbFGF産生を調整するよう作用することで、正常の真皮に近づけるよう線維芽細胞やコラーゲンの産生、血管新生を促す可能性があることが報告されています。
炎症後色素沈着の治療法
①ケミカルピーリング
グリコール酸は最浅層のケミカルピーリングで、角層、顆粒層、有棘層のレベルで皮膚を剥脱させます。
引用;大塚 藤男.皮膚科学.2016:vol.10:4:968
浅い陥凹も合併→20%グリコール酸
深い陥凹も合併→30%〜40%グリコール酸
【副作用】
軽微な局所の発赤、一過性の刺激感程度です。稀に紅斑、水疱、びらん、潰瘍、痂皮、色調変化、一過性の毛穴の拡大、血管拡張などが起こり得ます。
②イオン導入
イオン導入は微弱な電流によって物質を経皮的に生体内の深部に浸透させる方法です。ニキビは毛包性疾患であるので、電気によって毛穴から製剤を毛包内に浸透させるイオン導入は有効です。特に脂溶性物質は吸収に適しています。痛みは原則なくエステ感覚で受けることができます。入れる製剤によって付加効果が変わってきます。※電流を扱うのでペースメーカーが体内に入っている方はできません。
③bFGF(basic fibroblast growth factor)外用
萎縮性瘢痕は表皮の欠損によって生じているので欠損した表皮細胞をbFGFの外用によって増殖させ、欠損した表皮細部を補填して陥凹している萎縮性瘢痕を改善すると考えられています。(bFGFは線維芽細胞の増殖を促進するのみならず、 血管内皮細胞、血管平滑筋細胞や表皮細胞など創傷治癒に関わる種々の細胞に対し遊走や増殖を促進することが明らかになっています。主に褥瘡などの潰瘍に対して使用しています。)
引用;Non-surgical treatment with basic fibroblast growth factor for atrophic scars in acne vulgaris
④ビタミンC誘導体外用
最近ではビタミンC誘導体の安定化した両親媒性ビタミンC誘導体(カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸)なども報告されています。従来のビタミンC誘導体(AsA)の2位の水酸基にグリセリン、3位の水酸基にオクタノールを結合させることで従来の不安定な両親媒性ビタミンC誘導体の安定性化を成功させています。このオクタノール基により、アクネ菌に対する抗菌効果が報告されています。
⑤アゼライン酸
小麦やライ麦などの穀物や酵母に含まれる飽和ジカルボン酸です。アゼライン酸(15〜20%)は、ニキビができる原因を抑制します。皮脂分泌抑制作用、角化抑制作用、抗菌作用、抗炎症作用です。作用機序としては下記が報告されています。
①ミトコンドリアオキシドレダクターゼを阻害することでメラニン細胞の細胞傷害を起こし美白効果を示す②5-αレダクターゼを阻害しニキビの間接的原因であるテストステロンの活性を抑制する③ニキビの原因菌であるプロピオニバクテリウム含め、好気性・嫌気性菌に対して静菌活性を有する④ケラチノサイトに対する異常角化を抑制する
以上のことから非炎症性皮疹と炎症性皮疹の両者に対する有効性が期待できます。ニキビの原因とされる毛包角化異常を抑制したり、アクネ菌の増殖抑制効果もあることからニキビの初期治療として、さらにチロシナーゼ活性阻害作用があるためニキビ痕の色素沈着を抑制する働きもあるためニキビの治療の最初から最後まで使用できます。
さらにレチノイドによるピーリングや紅斑などの副作用とは異なるため、レチノイドの副作用が気になる方、妊婦の方(レチノイド使えないため)でも安心して使用できます。
⑥美白剤
まとめ
多くの方が肉眼的に炎症性皮疹(紅色丘疹)になってから医療機関へ受診することが多いですが、炎症の程度が強い場合、萎縮性瘢痕は終生残ってしまう可能性があります。ニキビ痕の予防は「面ぽうを含めた肉眼的非炎症性皮疹の段階からの早期介入と維持療法の継続」が何より大切です。
炎症性痤瘡の段階であれば介入の手段はあるが、痤瘡瘢痕が形成されると薬物療法では改善が難しく、たとえレーザー治療であったとしても正常の皮膚に戻すことは困難です。ただし研究報告から上記治療は試してみる価値はあると思います。ただし逆に痕が目立ってしまうなど必ずしも成功するとは限りません。個人的にはニキビ痕の治療にはいずれの治療にもイオン導入を併用するといいと思います。
クリニックで治療するなら
色素沈着
・30%サリチル酸マクロゴールまたはGAピーリング
・イオン導入(詳しくはこちら)
・美白剤
萎縮性瘢痕
・まずはトリクロロ酢酸ピーリング
→効果がなければマイクロニードリングセラピー(Dermapen,POTENZA)
→効果がなければまたは浅ければフラクショナルレーザー(ピコレーザー)
効果がなければまたは深ければフラクショナルレーザー(CO2レーザー)
・イオン導入(詳しくはこちら)
自宅でのケアなら
ノンコメドジェニックの製品を選ぶ
ニキビ用化粧品では、アクネ菌に対する殺菌効果や患部への抗炎症効果によるアプローチが主流とされています。ただ、それを目的として発売されたニキビ用化粧品に、アクネ菌を増殖させてしまう成分が含まれていることがあります。サティス製薬ではアクネ菌を増殖させやすい化粧品の成分について下記を報告していました。グリセリン、D(+)グルコース、D-ソルビトールは高い資化性を示し、特にグリセリンは通常の増加率よりも約4倍の増殖を示しました。
やさしく!こすらない!すすぎすぎない!
クレンジングはたっぷりした量を肌に優しくなじませ、優しく数回洗い流します。洗顔はよく泡立てた石鹸で手のひら全体で泡を転がすように顔全体に優しくなじませます。すすぎは手のひら全体にぬるま湯をため、顔全体にぬるま湯をさっとかけるように流し、泡がなくなったら終了とします。すすぎ回数は10回程度でいいです。保湿については化粧水は手のひら全体を使用して、顔全体に優しくなじませるように塗ります。強くこすりつけたり押し込んだりしないようにしてください。乳液や美容液、クリームはニキビを避けて乾燥している部分に使用してください。
色素沈着がある場合
ビタミンC誘導体、ビタミンA、ハイドロキノン
赤みが強い場合
トラネキサム酸、グリチルリチン酸2K、アゼライン酸
肥厚性瘢痕や皮膚の硬さが目立つ場合
ビタミンA、サリチル酸、グリコール酸
瘢痕+色素沈着
顔全体の硬さと瘢痕が最も気になる場合はヘパリン類似物質配合ローションを全体に使用し、色素沈着が混在していればその部分にビタミンAやC配合を塗る。陥凹や肥厚に対して夜間にエピデュオ®︎ゲルも併用する。
2017年にエピデュオ®︎ゲル(0.1%アダパレン・2.5%過酸化ベンゾイルの配合剤)が中等症から重症の痤瘡患者の萎縮性瘢痕形成のリスクを下げることがRCTで明らかになりました。少なくとも10個以上の萎縮性瘢痕がある痤瘡患者が6ヶ月間エピデュオ®︎を使用したところ、瘢痕の増加を認めませんでした。プラセボ群では25%萎縮性瘢痕数が増加しました。この結果から炎症性痤瘡の改善のみならず、痤瘡瘢痕の形成抑制、痤瘡瘢痕の改善にも繋がる可能性が示唆されました。
ニキビ予防
ビタミンC誘導体、アゼライン酸、グリコール酸、過酸化ベンゾイル